タンタンの月世界探検
家の本棚からこんな本が出て来た.厨房の頃に英語の勉強を兼ねて買ったような記憶があるんだよな.厨房なのにえらいマニアックな選定だなとかそういうのは置いといて.
見ての通り,タンタンがロケットで月に行くという話で,子供向けにしてはけっこうリアルに書かれてるんだが,この本の出版年を見て仰天した.
なんと 1954 年なのだ (雑誌初出はさらに古く 1952〜1953 年らしい).
ちょっと宇宙開発史をひもといてみると,
- 1969: 人類が初めて月に到達 (アメリカ・アポロ 11 号)
- 1961: 初の有人宇宙船打ち上げ (ソ連・ボストーク 1 号)
- 1959: 月に無人探査機が初めて到達 (ソ連・ルナ 2 号)
- 1957: 世界最初の人工衛星打ち上げ (ソ連・スプートニク 1 号)
それなのに,月の情景や小惑星の姿,無重量空間や月の低重力の描写は非常に正確で,今読んでも全く違和感はない.恐らく,当時の専門家の監修が入っているのだろうが,あの時代にここまで描いているというのは本当に驚きだ.タンタンがタラップを降りて月面に第一歩を記す場面など,史実を思い起こしながら読むと実に感慨深い.
もちろん,違和感を感じる部分もあることはある.
主人公の乗ったロケット (形といいカラーリングといい V2 そっくりだ) は単段式往還機 (SSTO) で,機材の切り離しなく直接月への軌道に乗り,周回することなく着陸し,また飛び上がって地球に帰還する.完全に再使用可能なロケットだ.こんなとんでもない飛行計画が可能なのは原子力エンジンを使っているからで,なんと作中ではエンジンによる加速で 1G の疑似重力を船内に作り出したりしている! ありえねー.しかも打ち上げ時の加速が強すぎて乗組員が全員失神したり….
また乗員は無重量空間での歩行用にマグネットブーツを履く (「2001 年宇宙の旅」に出て来たなあ,と思ったけど,あの映画って 1968 年なんだよな).現在誰もそんなブーツを履かないのは,たいして歩きやすいもんでもないからかも知れないし,アビオニクスに影響があるからかも知れない.
そして,この絵本には,月から地球を眺める,というシーンが全くない (一応,地球が空に見えてるシーンはあるんだけど,いわゆる「半地球」になってないし,印象的でもない).この本がもし 1969 年以降に書かれていたら,この象徴的なシーンは必ず盛り込まれると思う.人工衛星もない時代だから無理はない.
ちなみにこのロケットの打ち上げの話は前作に詳しく,ロケットの設計図なども載っているらしい.
1,100 円かあ.買っちゃおうかなあ(ぉ
追記: 上記の本の科学的妥当性については以下が詳しい.