ハルヒってやつを見てみたら凄いメタフィクションですね

春から夏にかけて,いつも巡回してるいくつかのブログが突然熱にうかされたようにハルヒハルヒ言い出した.互いにジャンルも違う,そもそもアニメの話題なんて普段全然書かないようなアルファブロガーさんたちだけに,何なんだこのハルヒとかいうアニメは,そんなにすごいのか,と気になりだした.自分と波長の合う記事をいつも書いてる彼らがハマッた作品なら,きっと面白いに違いない,ということで,この連休に試しに見てみることにした.

…というより,このところ嫌な仕事が続いて,長時間逃避できる何かが欲しかっただけかも知れない.

ちなみに見たのは YouTube ですごめんなさい.本放送は間に合わなかったし,DVD 化されているのも一部のようなので.



漫画は普段良く読むけど,アニメをちゃんと見るのなんてエヴァンゲリオン以来 10 年ぶりである(ぉ.特にこの手の「萌えアニメ」には全然免疫がない.なので,最初の数話はいわゆるアニメ特有の文法についていけず苦労した.こんな高校生いるかよ,みたいな.登場人物の喋り方とか,動きとか,服装とか,都合の良すぎる展開とか,意味のないコスプレとか.…しかし慣れとは恐ろしいもので,「これはアニメのお約束なんだ」ということがわかってきてからは全く気にならなくなり,最後は「あー,みくるちゃん萌えってこういうことなのか(ぉ」という悟りの境地にまで達してしまった(激ぉ.10 年前だったらハマってグッズとか買ってたかも知れない.



いや,実に良くできてる.これはすごいメタフィクションだ.主人公の周囲で奇想天外な事件が次々と起こることはもちろん,主人公がまさに「それなんてエロゲ?」的ハーレム状態なのも,高校生が校内でバニーやメイドの恰好をしてるのも,野球大会や孤島の殺人事件といったお約束なラノベ設定も,SF の詰めが物足りないのも,わかりやすいキャラ分けとアニメ口調も,全部ヒロインであるハルヒのせい,という論理がちゃんと成り立つのだ.物語世界がハルヒの望んだものだという設定である以上,作中の謎からメタフィクショナルな引っかかりまですべてを,一登場人物に帰することができる.「アニメのお約束」の起源が作品内に内包されちゃってるのだ.すごい構造だ.

さらに,そういう不条理なお約束にツッコミながらアニメを見ている自分が,ちょうど劇中劇にツッコミを入れている主人公と相似になっている.その劇中劇 (主人公達の作る自主製作映画) の演出方法が大変凝ったものになっていて (「『素人が作った実写映画』のチープさ」をアニメで再現している),

これだけでもメタフィクション的にエライ事なんだけど,これはさらにその外層の相似なメタフィクション構造 (アニメと視聴者との関係) に踏み込むための基礎なのかも知れないですね.外層のメタフィクション構造を確立するために,あえて内層にも強烈なメタフィクション構造を持ってきている.ついでに話の時系列がバラバラなのも典型的なメタフィクションだし,さらに公式サイトの存在は「第四の壁」(観客と舞台との間にある壁) を内側から破っているとも取れますね.これでもかとばかりにメタフィクションを突き付けてきているわけだ.筒井康隆清水義範に匹敵するメタメタぶりだ.考え過ぎかな.



まあともかく,よくできてる.それから音楽の使い方が実にうまい.こういうのは漫画にはない楽しみですね.あとは,作中に出て来る Windows プログラムがちゃんと動くコードだとか,そういうところが世のブロガーさんの気をひいたんだろうか (いや自分か).ストーリーは正直いうとあまり面白く思えなかったんだけど(ぉ,多分事前に期待しすぎたせいだろうし,それもハルヒのせいなんだろう.



ちなみにアニメ版は肝心な部分 (主人公達の過去の話) をカットしていて,原作を読まないとわからないらしい.くそー,うまい商売だな.アニメで騙られなかった設定の続き (話の続きではなく) が気になる.既刊 8 冊,全部買っても 4,320 円と大人買いできる価格帯ではあるけど,ラノベってアニメ以上に免疫ないからなあ (それとも読んでいるうちに慣れるのだろうか).うーむ.